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乳癌におけるがんゲノム医療について

2020年8月24日

 アンジェリーナ・ジョリーによる2013年5月14日付の 「ニューヨーク・タイムズ」紙への「マイ・メディカル・チョイス」という署名記事を発端に、"遺伝性乳癌卵巣癌症候群(以下HBOC)"という言葉は広く世界に浸透しました。HBOCの原因遺伝子にはBRCA1とBRCA2があり、これらのいずれかに病的変異があると、女性の場合は乳癌と卵巣癌の発症リスクが高くなります。80歳までの乳癌の累積リスクは69-72%、卵巣癌では17-44%と報告されています。これらの病的変異のある遺伝子は親から子へ性別に関係なく2分の1の確率で伝わっていきます。
 2018年よりリムパーザRがBRCA遺伝子変異陽性の再発乳癌患者さんに使用可能となりました。リムパーザRはDNA修復にかかわる酵素"PARP"を阻害する分子標的薬であり、BRCA遺伝子変異陽性の患者さんに発生した乳癌はBRCAの異常によりDNA修復に不具合がおこっているというコンセプトのもと開発が行われました。再発乳癌における承認のもととなった臨床試験においては、リムパーザRは従来の化学療法に比べ、おおよそ2倍の抗腫瘍効果を認め、逆に副作用は半分になるという良好な結果を示すことができました。リムパーザRの承認とともにBRCA遺伝子検査も"コンパニオン診断"としてHER2陰性再発乳癌患者さんに施行できるようになりました。
 HBOCに起因する乳癌は全乳癌の5%を占め、日本で年間9万人が乳癌と診断されておりますので、おおよそ年間4500人の患者さんがHBOCを背景に乳癌を発生していることになります。再発乳癌患者さんについてはBRCA遺伝子検査とリムパーザRの使用が保険適応となりましたが、その他のHBOCにかかわる診療は自費診療でおこなわれています。遺伝カウンセリング、BRCA遺伝子検査、乳癌スクリーニングのための乳房MRIや卵巣癌スクリーニングのための腫瘍マーカー検査や経腟超音波、さらにリスク低減乳房切除術・リスク低減卵巣卵管切除術はHBOCにとっては重要な診療の柱であります。日本では2016年より日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)が設立され、診療体制の整備が進められております。JA広島総合病院もJOHBOCの"協力施設"として認定されており、患者登録事業を始めHBOC診療に携わる医療機関としての役割を担っています。
 がんゲノム医療の推進により、2019年6月にがん遺伝子パネル検査が保険適応となり、ますます遺伝情報をもとにした癌の診療が身近なものとなりました。今後も乳癌患者さんにより適切な診療が提供できるように、診療体制の充足に努めていきます。

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